サステナビリティ
常に足を止めず、改善に取り組む
2024年3月期決算は、すべての段階利益で黒字化を果たしたものの、全体的に力強い収益改善にはなっていないと認識しています。
地域別に見ると、国内では子会社の経営統合をはじめとする抜本的な構造改革が奏功し、売上高は横ばいであったものの営業利益が黒字に転換しました。
一方、ピックアップトラック向けに製品を供給してTBKグループの成長を牽引してきたタイでは、政策金利の高止まりや家計債務の悪化を背景に、ローンの審査が厳格化した結果、自動車販売が急減した影響が出ています。黒字は保っていますが、力強い収益とは言えません。
これに対してインドは比較的好調です。既存品の値上げや新たな製品展開に成功し、当初の想定を上回って収益に貢献しています。3年前と比べて売上が2倍になっています。
懸案の中国では、日系企業にブレーキ用ライニング(摩擦材)を供給する事業は黒字に戻すことができました。合弁で地産地消するブレーキ事業は、黒字と赤字を行ったり来たりの状況が続いています。状況に改善が見られないようであれば、ダウンサイジングもやむなしとみています。
もう一つの課題であった北米については、現地生産を2024年9月に終了しました。得意先との交渉が実り、主力のウォーターポンプについてはインドからの供給に切り替えることができました。高品質で、他社には真似できない仕様であることを評価いただいた結果と言えます。
私は2002年に米国工場の立ち上げに関わった後、2011年から3年余り、TBKアメリカ(TBK America, Inc.)の社長として再び赴き、北米事業の立て直しを成し遂げました。そして、TBKの社長となって、この事業の抜本的な改善についてお客様と議論を重ねることになりました。今回、インドへの移管によって、この事業の収益面での課題に終止符を打つことができましたが、結果的に生産拠点の移転に至った点については重く捉えています。
このように2024年3月期は、私が2022年4月に社長に就任して以来進めてきた取り組みが徐々に効果を表してきたと評価しています。
TBKは2024年5月、2025年3月期を最終年度とする第15次中期経営計画(以下、中計)の目標について、売上高は540億円、営業利益は10億円に、それぞれ下方修正することを発表しました。 国内では車両メーカーのバックオーダー解消と新型へのモデルチェンジ前の駆け込み需要が終息したこと、海外ではタイにおける需要減の影響が見込まれるほか中国事業の回復も想定より進んでいないため、売上高が当初目標から大きく乖離すると予想しています。建機向けに関しても、数年ごとに繰り返される需要サイクルの谷間にあるために売上高が伸び悩むと思われます。 売上減少に伴う利益の減少に加え、先ほど述べた米国工場生産停止に伴う特別損失として、2025年3月期第1四半期決算において減損損失110百万円、事業再編損195百万円を計上しました。なお、計上した特別損失は一部であり、連結業績への影響が確定次第、速やかに開示いたします。(2024年11月7日「連結子会社における特別損失の計上及び連結業績予想の修正に関するお知らせ」にて開示済) こうした状況を打開するため、私自らがトップセールスに注力するとともに、車両メーカーからの“ブレーキとポンプの会社”という当社に対する先入観を払拭すべく、製品展示会を開催しています。素材から様々な加工、そして組み立てまで一貫して手がけている強みを改めてアピールすることにより、これまで手がけていなかった製品の受注につなげています。 一方、中計で掲げた「新領域への挑戦」では、タイで手がけているグラビティ鋳造(金型鋳造法)をいち早く軌道に乗せることが課題となっています。精度が要求される自動車部品を製造していますが、不良率の高止まりが原因で収益への貢献が遅れています。タイに駐在していた際に私が手がけた事業でもあり、実際に現地に足を運び、てこ入れを図っています。 グラビティ鋳造については今後、タイと同様に、金型の内製化に取り組んだうえで、国内でも展開していきたいと考えています。
同じくタイでは以前、アルミダイカストの大型鋳造機を導入する計画を発表していました。しかし、商用車の電動化が予想していたほど進んでいかないため、導入時期を1年程度先延ばしにします。すでに機械の選定は終わっており、時期を見極めて投資していきます。 一方、具体的な取り組みが進捗しているのが、ラインの統廃合、ロボットの導入と自働化です。 国内では、ラインの稼働が一目で把握できるシステムを構築し、見える化することで、ラインの統廃合を積極的に進めています。 中国では、ロボットが安価に導入できるため、一部の工場では導入により十数人単位の少人化につなげています。インドにおいても、新たなラインを設置する際に、ロボットを導入することで成果を上げています。 このように自働化、ロボット化は海外の方が進んでおり、日本においても検討を進めていきます。 こうした現状の分析や改善の動きをグローバルに共有するため、QCサークルのような品質改善活動や全社発表会のような仕組みを導入することも検討しています。 現在のように業績が停滞しているのは、TBKが従来型の経営やものづくりにとどまっており、競合も限られるという環境に甘んじて変われなかったことが原因です。 「VISION 2030」に掲げた2030年に向けた行動原則「Do now. Do new. Run fast.」にあるように、常に足を止めずに、改善を進めていかなければならないと考えています。 改善が浸透するように意識改革を推進し、やる気のある社員を評価して報いていくため、人事制度を含めた改革を前進させていきます。 このほか、中計で掲げた「ESG経営の取り組み」では、2024年度に2013年度比で15%削減を掲げたCO2排出量において、当年度の削減量が29.4%となり、目標を達成することができました。これに最も寄与したのが太陽光発電の導入で、タイ、インド、日本の拠点に設置しています。例えば、福島工場では駐車場への太陽光パネル設置を進めており、再生可能エネルギーを活用した脱炭素化を推進しています。 鋳物を加工する際に発生した切粉を回収し、鋳物を製造する際に再利用するなど材料費の削減に積極的に取り組み、コストアップを抑制しています。
商用車の電動化については、2027、28年ごろから当社の収益に貢献する規模に達し、2030年から徐々に一部が電動化に切り替わり始めるとみています。ただし、そのうちの3分の1がEV、3分の1が燃料電池、残りがエコフューエルとの組み合わせといったように、3つぐらいの選択肢に分かれるのではないかと予想しています。 車両メーカーも、商用車の電動化をどのように進めていくのか、決めかねているように思われます。現状、商用電動車は価格が高く、よほど効率良く稼働させない限り、収益効果が期待できないからです。 欧州では1日のトラックの走行距離は800キロに達すると言われており、その場合、電池の劣化がどれほど進むのかなどのランニングコストの問題や、充電時間や寒冷地での使い勝手などが明らかになるにつれ、求められる商用電動車も変わってくることでしょう。 商用車がどのような方向に進もうと、お客様に「それはできません」とお答えすることがないように、TBKは電動化と内燃機関の両方に軸足を置いていきます。トラック、建機、農機では、内燃機関が残っていくと想定しています。変化に柔軟に対応していけるように、両にらみで開発を進めていきます。 電動化への対応では、先ほど触れた商用電動車のコストの問題を克服するため、長く使うことを前提としたアフターマーケットやリサイクルの重要性が増すに違いありません。TBKとしても、このマーケットを取り込むことで収益を上げていきたいと考えています。 足元の電動化製品の開発状況では、大型商用車向けの駆動装置「e-Axle」や電動コンプレッサーを搭載した試験車両を製作し、2023年の夏から当社の十勝試験場で試験走行を重ねています。トラックの部品メーカーで電動車をつくったのは、TBKが初めてです。現在、車両メーカーの技術者を招いて試乗してもらい議論を重ねているところで、開発は順調に進んでいます。 当社のリターダ技術を進化させたエンジンアシストシステムもお客様とともに開発を進めており、従来のエンジンにモーターを組み込むことで駆動力をサポートし、発進性、燃費、加速性を向上させます。サイズも大きく変わらないという特徴があります。 このようにTBKは、自動車業界の一大変革の時代にあって、商用電動車での取り組みにおいて他社をリードする存在であり続けます。そして、素材から加工、組み立てまでを一貫してできる強みをフルに発揮して、国内外の様々な企業とアライアンスを組んでいきたいと考えています。そして、TBK単独では難しい様々なソリューションを商用車市場に提供することで、持続的な成長を遂げていきたいと考えています。
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